第7回 日本放射線事故・災害医学会 年次学術集会

大会長挨拶         

Tohoku University School of Medicine この度、第7回 日本放射線事故・災害医学会 年次学術集会を、2019年9月21日に仙台市の艮陵会館にて開催させていただくことになりました。本学術集会の仙台での開催は初めてですが、放射線治療がご専門の東北大学名誉教授 山田省吾先生が、2003年に本学会の前身である第7回放射線事故医療研究会・平成15年緊急被ばく医療全国拡大フォーラムを仙台で開催して以来、16年ぶりのこととなります。  

   

 日本は、1999年9月に発生した東海村JCO臨界事故で、主にγ線と中性子線による業務従事者の高線量率・高線量被ばくを経験し、2011年3月に発生した東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故(福島原発事故)で、放射性ヨウ素や放射線セシウムなどの環境中への放出による、公衆の低線量率・低線量被ばくを経験しました。

   

 業務従事者の高線量率・高線量被ばくと公衆の低線量率・低線量被ばくでは、医療対応はまったく異なります。東海村JCO臨界事故後に作られた緊急被ばく医療体制は、チェルノブイリ原子力発電所事故のような原子力災害は日本では起こらないという考えに基づき、主に業務従事者の高線量率・高線量被ばくに対応する体制が整備されました。福島原発事故後には、主に公衆の低線量率・低線量被ばくや放射性核種による軽微な汚染に対応するための体制作りに力が注がれているように感じられます。  

   

 将来の放射線事故・原子力災害は、これまでの事故とは大きく異なる事故である可能性があります。今後は、テロや人口密集地域(大都市等)でのdirty bomb等の可能性も考慮する必要があると思います。驚くべきことに、欧米ではdirty bombは、オンライン・マルチプレイヤーによるシューティングゲームである「Dirty Bomb」として一般公衆に普及しています。当該ゲームのホームページには「少しの放射線病くらいなんともないだろう?」と書かれています。

   

 難しいことと思いますが、これから起こるかもしれない未知の事象に対応するためには、現場で即座に判断できるような、放射線に関して深く広範な知識を有する人材を育成することが重要です。また、それらの現場の判断を活かせるような柔軟な組織・体制を作る必要があると思います。  

   

 医学部での放射線生物学の研究者は減り続け、放射線生物学全般を広く理解している医師の放射線生物学者は今や絶滅危惧種です。1954年3月に発生したマーシャル諸島での第五福竜丸被ばく事故以降、我が国は唯一の被ばく国として多くの優秀な人材が放射線領域に投入され、仰ぎ見るような立派な研究者を輩出してきました。研究者を含めて優秀な人材を育成することが将来のために絶対に必要なことと考えています。この年次学術集会により、若い医師や関係者が緊急被ばく医療に興味を持ち、この分野に進むきっかけになることを祈っています。

   

東北大学 大学院医学系研究科 放射線生物学分野 教授

東北大学 災害科学国際研究所 災害放射線医学分野 教授

細井 義夫

   

inserted by FC2 system